先日お客様にクラシックコンサートにご招待頂き、非常に感動をしました。もちろん、楽曲もですが、指揮者のリーダーシップに本当に驚きました。今回は50名のオーケストラでした。約2時間のパフォーマンスを一糸乱れぬ統率力で1500名の観客を感動させるのですから凄いリーダーシップだと思います。オーケストラに詳しい人には当たり前の事かもしれませんが、初心者の私には驚きでした。
以下、音楽評論家の室田尚子さんの解説を抜粋引用させて頂きました。。
指揮者の役割
数十人からなるオーケストラをたった1人で操り、音楽をつくり上げる指揮者。しかし、クラシック音楽を初めて聴いた人にとって、指揮者が実際の舞台で何をしているのかは、なかなかわかりにくいところがあります。楽器の代わりに1本の指揮棒を振り、その棒に合わせてオーケストラが演奏している、ということはわかりますが、果たして、指揮者の役割とはどんなものなのでしょうか。
コンサートの前に行う重要な仕事
指揮者はよく、映画監督や演劇の演出家に例えられます。台本を元に俳優たちにどんな風に演じてもらうか、全体の映像をどのように仕上げるか、などを考えるように、楽譜を元に実際にどんな音楽をつくり上げるかを考え、それを演奏家たちに伝えて演奏に結びつけてもらう。指揮というのは「音楽の演出家」といえるかもしれません。
「その作品をどんなかたちにつくり上げるか」を考えるために、指揮者はまず楽譜と徹底的に向き合います。作曲家が何を考え、どんな意図でその音符を書いたのか。それを知るためには、楽譜を正確に読み取ることはもちろん、その作曲家が生きた時代や当時の作曲方法、演奏のスタイルなど作品の背景についても学ばなければなりません。こうした「勉強」があって初めて、指揮者はその作品をどんな音楽にしたいか、という設計図を描くことができるのです。
そしてその設計図に基づいて、オーケストラから理想の音を引き出すわけですが、そのためにはコンサートの前に行われるリハーサルが重要。通常のオーケストラのコンサートならば、数日前からリハーサルが始まりますが、そこで指揮者はオーケストラのメンバーに自分が描いた音楽のすがたを伝え、また各楽器ごとにテンポや大きさ、表現などについて細かい指示を出していきます。こうしてリハーサルでつくり上げた音楽を、実際のコンサートで演奏する際には、指揮棒や表情、体全体を使った身振りによってオーケストラに再び指示を出していくわけです。
何よりも大切なのは「人間力」
ひとくちに「オーケストラ」といっても、それは、ひとりひとりが意志も個性もある演奏家の集合体です。彼らからの信頼がなければ、到底指揮者の思い通りに演奏してもらうことはできません。そこで指揮者には、演奏家といかにうまく心を通わせることができるか、という能力が求められることになります。かつて、20世紀の前半に活躍した「巨匠」と呼ばれる指揮者たちは、自分の意のままにオーケストラを操り、言うことを聞かない団員は容赦なくクビを切るような「専制君主」タイプが主でした。彼らは練習の段階からオーケストラを徹底的に鍛え上げ、時にオーケストラはその指揮者の「楽器」と呼ばれることもありました(例えばクリーヴランド管弦楽団は「(ジョージ)セルの楽器」と呼ばれていました)。
しかし21世紀の現在では、こうした「専制君主」タイプの指揮者はあまりいません。現在ではむしろ、楽員の意向をすくい上げ、彼らひとりひとりの「やる気」を最大限引き出すことができるような人が、指揮者としては成功しているようです。時には自分より年齢も経験も上の個性豊かな演奏家たちをその気にさせ、能力とやる気を存分に引き出しつつ、自分が描いた設計図通りに音楽をまとめ上げる。指揮者には、まさに、常人以上の「人間力」が求められているといえるでしょう。(室田尚子/音楽評論家)